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2003年10月05日

昔の彼

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部屋の扉をあけると人がいる気配。見回すと一人の男性がパソコンを使っていた。
「だれあいつ!」同行していた知人が叫ぶ。
「ダイジョーブ。あいつ昔の彼氏なんだけど最近近所に越してきたんだって」
よくわからないが不審者じゃないのならそれでいい。

主人公のA子はその彼が勝手に部屋に入っていたことは不満だったが、追い出すわけにもゆかないと思っていた。だが「昔の彼」を名乗る男性が本当にそうなのか密かに疑っていた。顔を見れば確かにそうかもしれないが、なんとなく違う気もする。こんな顔だっただろうか?いずれにしてもあんな遠くにいたのにすぐ近くに引っ越してくるなんて、そんな偶然もあるんだなぁと思っていた。

少しでも広く使いたいと部屋の中を整理しながら彼のほうを見る。やはり疑問は拭い去れない。何かが違う。絶対違う。もっと顔は濃かったはずだ!「昔の彼」を名乗ってそこに座ってパソコンをいじっている彼は、A子の部屋を自分の部屋のように自由に歩き回り、食事をし、友達を連れてくる。日本人とは思えない、浅黒く見覚えのない顔立ちの面々がやってくるのだった。

「絶対に違うわ。こいつ、昔の彼じゃない!化けてる!!」
外で食事をしているとき突然A子は確信した。
「ちょっとさ、ここに名前書いてみてよ」
彼の目の前に紙とペンを差し出して言った。筆跡を確認しようというのだ。
渋ってなかなか書かない男。
「名前書くだけじゃん。いいから早く書いてよ。知ってるならちゃんと漢字でね。」
彼は名前を書こうとするが1字も書けなかった。

「あんた、違うじゃん!おっかしいと思ったんだよね!何?詐欺師!?」
A子は立ち上がって目の前の男を罵倒する。男は黙って下を向いたまま動かない。
「いったいどういうつもり?目的は何かって聞いてんじゃん。昔の彼に成りすましてさ、タダでひとんちに住んでさ、飯食ってさ、好き勝手にパソコン使ってさ、何?それが目的?どっからきたわけ?」
「まぁまぁ…彼にもそれなりの理由があったんじゃないですかぁ~?」
と近くで食事をしていた人がやってきてA子をなだめるが、間髪いれずにA子は叫んだ。
「それなりの理由?そんなもの絶対ないッ!!」

その瞬間、それまで黙ってうつむいていた男が顔を上げ、A子をにらみながらガタンと椅子を鳴らして立ち上がり、格闘技スタイルで身構えた。「まじかよ!」思わずA子も半身で身構えた。が体格差は歴然としている。どう考えたって格闘技で勝てる相手ではない。だが他の手立てを思案している時間はまったくなかった。彼が攻撃をしかけてきたからだ。

彼の容赦ないキックやパンチや飛んでくる。A子はなんとか腕とひじを使ってブロックするのが精一杯。こちらからも応戦したいのだがじりじりと部屋のコーナーへ追い込まれていく。まわりにいる人たちが邪魔で身動きが取れない。
「ちきしょ~~!!反撃したいけど全然隙がないよ~~!!女相手にまじで蹴るか普通?それにしてもキックされると結構いてぇな。」後ずさりしながら考えていた。

「ピンポーン♪」
「はぁーぃ…」
「ピンポーン♪」
「はぁぁぁぁぁーーーーーい!」

チャイムが鳴ったので反射的に返事を返した。玄関に向かおうとするがいまいちバランスが取れない。玄関につくと男性の声が聞こえてきた。ドアを開けるとそこは現実だった。

「今日隣に越してきた○○と申します。引っ越しのご挨拶にと思いまして。
 あ!すみません…お休み中でしたか!お休み中のところほんとに失礼しました。
 これは洗剤ですがご挨拶に…。これからよろしくお願いします。」
「あ、ご丁寧にありがとうございます~。はい~。こちらこそよろしくお願いします~」

寝起きで爆発頭、まぶしくて目はショボショボ。ろれつもよく回らない。初対面の相手に究極の「素」で応対。なんかドタバタしてるなあと思ったら引越しだったのか。

時計を見る。はぁ~…もうお昼か。そう!あの対決は夢だったのだ。そして目が覚めたら「ビッグになったら空いてる隣の部屋も借りる」というこれまた壮大な夢がついえたことも判明した。(全然壮大じゃないぞ>自分)

夢の一部始終を思い出しながらけったいな話だったと思いつつ、戦闘体制に入った相手を目の前に、自分もまたこぶしをつくって半身で身構えたあたりはなかなかやるなと思った(笑)。反撃したかったなぁ!蹴りの連続で受けるのが精一杯だったのが残念だ。寝る前にまた「まわし下痢」といわれたので「飛び下痢!」なんて返したのがいけなかったか?

投稿者 suzumari : 2003年10月05日 16:01

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